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感音難聴

我々人間が音を感じるメカニズムは、空気の疎密波である音が耳介で集められ、外耳道から鼓膜へ伝わり、鼓膜の振動が耳小骨での増幅を受け、蝸牛に充満しているリンパ液の振動と変わります。蝸牛リンパ液の振動によって、音を感じる有毛細胞の興奮が生じ、神経信号に変換されることにより、音を感じる脳で音として認識しています。難聴とは、以上の経路のいずれかに問題が生じた状態であり、外耳道から鼓膜までの外耳や耳小骨周囲などの中耳に問題があって音が伝わりにくくなることを伝音難聴、蝸牛が存在する内耳以降に問題が生じた状態を感音難聴、その両者が合併している状態を混合性難聴と呼びます。本稿では、感音難聴を呈する代表的疾患について、概説します。

1. 突発性難聴

通常一側性に突然発症する感音難聴のうち、明らかな誘因を認めないものが突発性難聴とされます。原因は解明されておらず、内耳血流障害やウイルス感染などが有力な説とされています。めまいを伴うこともありますが、反復しないという点が後述するメニエール病とは異なります。原因が不明であることから、特異的な治療も存在しません。しかし、発症早期にステロイド薬を用いた治療を行うことが推奨されており、血流改善薬やビタミン製剤を用いながら月単位での回復を期待することが一般的です。現在の医療水準をもってしても、発症前の聴力へ完治する確率は決して高くはありません。突発性難聴と鑑別を要する重要な疾患として、聴神経腫瘍が存在します。突発性難聴と聴神経腫瘍は、聴力の形や治療に反応して難聴が改善するか否かといった経過からは鑑別することができないため、原則として頭部MRIによる精査を行うべきと考えています。

2. メニエール病、低音障害型感音難聴

両者共に低音部の感音難聴を起こすことを特徴とし、症状としては耳が塞がれているような感じや水がたまっているような感じとなります。内耳に存在するリンパ液のむくみ(内リンパ水腫)が原因と考えられており、肉体的・精神的疲労による血流障害が原因として有力な説とされています。メニエール病は稀な疾患であり、内リンパ水腫を反復することで、難聴とめまい発作を反復します。体質とも呼べる側面を持つ疾患であるため、難聴やめまいが進行していかないような管理が治療の中心となります。両疾患共に薬物治療としては、内リンパ水腫を改善するための利尿作用を持つ薬剤や、血流改善薬およびビタミン製剤が中心となります。メニエール病で薬物療法に抵抗性を示す場合は、中耳加圧治療や手術加療(内リンパ嚢開放術)が適応となる場合もあります。医療的介入だけではなく、有酸素運動や一日の水分摂取量を多くとることは血流改善につながり、症状改善・維持に有効であると考えられています。

3. 外リンパ瘻

中耳圧や内耳圧が高まって内耳内のリンパ液の流出が生じた状態であり、症状としてはめまいと進行性の感音難聴を示します。原因は、頭部外傷や鼻かみ、ダイビングなどによる急激な圧変化により生じる誘因が明らかなものがある一方で、明らかな誘因が存在せず原因不明なものも存在します。検査としては、耳に圧力をかけた時にめまいや眼振が誘発される瘻孔症状の有無を観察したり、内耳特有のタンパク質であるコクリントモプロテイン (CTP) を測定することで診断します。安静にすることで自然治癒も期待できますが、改善がみられない場合や症状が強い場合には、診断と治療を兼ねて試験的鼓室開放術を行うこともあります。

4. 先天性難聴、遺伝性難聴、特発性難聴

約1000人に1〜2人の頻度で、生まれながらに難聴がある先天性難聴者が存在するとされています。先天性難聴に対しては、早期診断と補聴器や人工内耳などの人工聴覚器を活用した早期治療が重要であり、各自治体における新生児聴覚スクリーニングを受け、異常が指摘された場合には、鎮静下に行われる聴覚精査を受けることが重要です。仮に難聴が存在する場合には、1歳までに難聴の程度に従って補聴器や人工内耳の治療を開始することが推奨されます。

先天性難聴者の60〜70%に遺伝子が関与すると考えられており、難聴の原因遺伝子を調べる遺伝子検査は、2012年より保険検査として行えるようになっています。
難聴遺伝子検査

遺伝性難聴は、主に常染色体顕性遺伝形式、常染色体潜性遺伝形式、ミトコンドリア遺伝形式などの遺伝形式を取ります。常染色体顕性遺伝形式は、病気を持つ世代から次の世代へ発症する確率が50%と高確率を示す遺伝形式であり、今までいわゆる特発性難聴とされていた、指定難病である若年発症型両側性感音難聴の一部がこの遺伝形式を取ります。遺伝性難聴の多くは、常染色体潜性遺伝形式を取り、遺伝性難聴の原因として頻度の高いGJB2遺伝子変異やSLC26A4遺伝子変異もこの遺伝形式を取ります。常染色体潜性遺伝形式においては、原因となる遺伝子を両親いずれからも引き継いだ場合に発症します。また頻度は高くないものの、母方の家系に遺伝していく、特徴的な母型遺伝形式を取るものとしてミトコンドリア遺伝形式があり、代表的な遺伝子変異としてm. 1555A>G変異やm. 3243A>G変異が存在します。ミトコンドリア脳筋症と呼ばれる、心臓疾患や糖尿病など全身性疾患を合併することもあります。いずれの遺伝性難聴においても加齢性難聴とは異なり、難聴の程度が強いため、聴力に応じて補聴器や人工内耳などの人工聴覚器を適切に活用することが重要です。

 

5. ムンプス難聴

流行性耳下腺炎(おたふくかぜ、ムンプス)に引き続いて、通常左右どちらかに難聴が生じ、めまいを合併することもあります。ムンプス罹患患者の1.5〜2万人に1人の頻度で生じるとされています。治療としては、突発性難聴に準じたステロイド加療を行うことが多いものの、一般的に予後は不良とされています。ムンプスワクチン接種による予防が重要です。

6. 薬剤性難聴

内耳障害を与える可能性のある薬剤の投与により生じる難聴です。代表的な薬剤として、アミノ配糖体系抗生物質、白金系抗癌剤、ループ利尿剤、アスピリンが存在します。治療は原因薬剤の休薬が第一であり、ループ利尿剤、アスピリンによる難聴は可逆的なことが多く、比較的に予後は良好であると考えられています。一方、アミノ配糖体系抗生物質や白金系抗癌剤による難聴は、不可逆的なことも少なくなく、比較的予後不良と考えられています。

7. 騒音性難聴

短時間には難聴を生じない程度の音 (80〜90 dB) を長時間聞くことによって生じる難聴のことを騒音性難聴と呼びます。ヘッドホン難聴とも呼ばれ、若年者への難聴のリスクとして世界的に問題になっています。80 dBとは、地下鉄の車内、パチンコ店の店内と同等の音量であり、それを上回る音量で音楽を聴いている場合には、難聴のリスクとなっている可能性があります。一般的には、80 dBで40時間/週、98 dBで75分/週以上の使用で騒音性難聴のリスクと考えられています。このリスクを軽減させる方法として、ノイズキャンセリングヘッドホンの使用などが推奨されています。

8. 機能性難聴

難聴を訴えるものの、いわゆる聴力検査である純音聴力検査以外の聴覚検査では異常を認めないことを特徴とします。音刺激に対して、聴覚中枢が正常に反応できなくなっている状態と考えられており、思春期周辺の女性に多く、精神的ストレスが誘因になっていることもあることから、心因性難聴としても同様の所見を呈します。自然軽快することも多いが、誘因となっている原因を解決することが重要と考えられています。